タロット・フォーチュン
ここはニトリ。
(ちっ・・せっかくの休みの日にわざわざ椅子を買いに来たのはいいが、こんなに種類があるとはな。)
果てしなく並んだいすの数に俺は圧倒されていた。
一体どれを買うのがベストなんだ?
適当にオーソドックスな奴を買えば大きな失敗は無いだろうが、もっと良いイスがあったかも・・・と、あとになって後悔するかもしれん・・
若干面倒くさいが店員に聞くか?
「おススメのイスを教えてください。」と。
いや!それは変だ!やめた方がいい!
ただでさえ俺は見た目もヤバいのに、そんな変なことを聞いたら下手したら通報されかねん。
―ニトリで御用!!イス買うな!―
そんな三面記事になるのはごめんだ。
ちくしょう、いよいよ行き詰ってきたか。
行くも地獄、戻るも地獄、か。
そんな時ーー。
「すみません、おススメのイスを教えてください。」
なっ!!
なんだと!!
あいつ、聞きやがった!!
地獄に片足を突っ込んだバカがいやがった!!
「・・イス、ですか?」
ああ!やばいぞ!見ろ、あの店員の怪訝そうな顔!
終わったな、世の中にはやっていいことと悪いことがある。
おススメのイスを聞く。
それがやっていいことか、わるいことか。
そんなことはミジンコでもわかる、答えはNOだ。
グッバイ、アンド、ハバナイスデイ、イン、プリズン.
「おススメのイスでしたらこの三種類ですね~。」
なっ!あいつ・・。。
あと数グラムで落ちるか落ちないかのボロボロに腐りきった橋を渡り切りやがった・・
見極めたというのか、限界のラインを。
おっと、こうしちゃいられない!
こうなった以上、俺もこの店員のおすすめのイスとやらを聞き逃すわけにはいかない。
この客と店員のまわりを周回し情報収集する作戦に変更だ。
名付けてサテライト作戦だ!
「まずはこのイスですね、少々お値段は高いんですけど、北欧のマングローブを素材にした新商品なんです。」
「へーっ!マングローブって東南アジアなんかのものだと思ってたけど、北欧にもあったのか。」
「そうなんです、フィンランドの人間国宝カタストロフィさんが、マングローブでイスを作りたい!って駄々をこねて、北欧で育て始めたらしいんです。ビニールハウスとかエアコンの暖房をガンガン使って、そりゃもう大変だったらしいですよ。」
「そこまでして、北欧で育てる意味があるのかなぁ?」
「でもそのおかげでこんなに素晴らしいイスが出来たんですから。」
「これ、そんなにいいの?」
「そりゃもう。なんでも北欧で育てたマングローブは突然変異を起こしていて、吸湿性やら耐震性やらが抜群にいいらしいんですよ。」
「なに、耐震性って。それマングローブだった頃の話でしょ。イスにしたら意味ないよね。」
「それだけいい素材を使ってるってことですよ。」
・・北欧産マングローブのイスか。。個性的で悪くはないが、ちょっと高いな。
しかし、こうずっと聞き耳を立てながら周囲を徘徊しているのもなんか気を遣って疲れるな。
面倒だから、近くのイスに座ってスマホいじりしてごまかすか。
「続いて、2つめのおすすめ商品なんですが・・・」
おっ、2つめか!・・・って、こっちに近づいてきていないか?
来てるよな?
うわ、間違いなく来てる!
かーー!!つくづく俺って運が無いなあ!
どうしよう、今すぐ席を離れればまだ間に合うか?
いや、ここで逃げるように席を立つのは逆に不審だと思われる!ここは我慢だ!
「こちらのイスになりますね。」
「ほー!これ!中々いい見た目だね。」
って、俺が座ってるイスじゃねーか!!
なにが、「ほー、これ!中々いい見た目だね。」だ!
ほー、ってなんだ!ほー、って!
お前も他人が座ってんだから気を遣えよ、店員!
先に3つめのイスを紹介するとかあっただろ!やりようはあったろ!
「こちらですね、ペルー沖の流木で作ったイスになります。」
「ほー、流木で!ほほー、」
(マジで!?流木で!?)
「ペルー沖はですね、潮の流れが速くて、流木も速く流されるんです。しかもエルニーニョ現象が起こるとペルー沖の海水の温度が上昇するんですよ。そうすると、流木の温度も少し上昇するんですよ。」
「こちらのイスは、エルニーニョ現象が起きた年の流木だけを使ったとても貴重な品なんです。」
へー!そんなルーツがあったとはなぁ。
「なるほどなあ。・・・決めた!これを買うよ!」
マジか?ていうか、おれが座ってることには誰も触れないんだな。
そのあと、客は何事もなかったかのように流木のイスを買って帰った。
俺はというと、悩んだがマングローブのイスを買ったのだった。
多少値は張ったが、まあ別にいいじゃないか。
わざわざ北欧で育てたんだ、普通手に入るものじゃない。
俺はニトリを後にした。
ニトリ、意外と斬新な商品を扱ってるんだな。
店員の知識もすごいし、今日は有意義だったな。